秘密の女教師 其の四

 

美佐は学生時代、ずっと柔道一筋の少女だった。

一時的にはオリンピックの候補選手にまで上り詰めたが、運の悪いことに同世代に天才的な選手がいて、どうしてもオリンピックには出られなかった。彼女は当然のように金メダルを取っていたが、美佐はそれに嫉妬する事はなく、心から賛辞を送った。そうなると今度は柔道選手として続ける事をアッサリやめ、もう一つの夢であった教師への道に進む事となる。つまり、美佐は金メダリストと同じだけの力量を持つ武道家だった。それほど強い美佐だから、練習相手は当然男ばかりだった。つまり、無骨な男ばかりに囲まれて青春時代を送っていた。

そういう美佐だからこそ、好みの男性は逆に「知的で物静かな人」。知性的な男性にはコロッとまいってしまう弱点がある。この学校に赴任してから、同僚の若い教師は多少頭はいいかもしれないが中途半端でいまいち冴えないので、美佐の好きなタイプはいなかった。

そんなある日、この学校に一人の男がやってきた。

高橋健一郎という弁護士だ。

最近の学校では教職員だけでは対応しきれない法的な問題の解決のため弁護士を雇う事がある。高橋はそういう職務でやってきたのだった。はじめのうち美佐と高橋には全く接点はなかったのだが、以前この学校で起こった「寄付金横領事件」をたった一人で解決した教師がいると聞き、どうしても一度あってみたいと高橋のほうから校長に依頼したのであった。

「はじめまして、雪村美佐と申します」

 

美佐がお辞儀をして、頭を上げ、相手の顔を始めてみたとき、はっとした。弁護士というから、欲の皮の突っ張った脂ぎった中年を想像していたのに、高橋はまだ30前後でいかにも正義感溢れる秀麗な青年だった。

「どうも、弁護士の高橋です」

 

驚いたのは高橋の同じだった。まず、これほど美しい女教師がいること自体信じられないし、見るからに清楚可憐な美佐が、たった一人で寄付金の流れに疑問を持ち、それを調べ上げたというバイタリティに感嘆する思いだった。

 

二人の第一印象はお互い悪くはなかった。美佐にしても、相手がいくら見た目が良いといっても、ただそれだけで恋愛対象にするほど小娘ではない。しかし、実際に話をしてみると、高橋の言葉の端々でその教養の高さを感じるし、社会の弱者のために弁護士になったという高橋の姿勢にも好感が持てた。

約1時間ほど話し合ったが、別れの挨拶をしたときにはお互いに惹かれあうものを感じていた。

   
   

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