令嬢教師・英子 「妄想」

とある地方都市にあるここ私立毛利学園は、毎年多くの生徒を一流大学へ送り出すと共に、体育会系及び文化系のクラブ活動も活発で、そのいくつかは全国大会に出場するなど文武両道の名門校として知られていた。
ところが5年前、誠実な人柄と熱血指導で学園の発展に尽力していた創立者、毛利元道が急死した。そして急遽その後を弟の秋次が継ぐ事になる。

しかし、秋次は教育とは無縁の企業家であった。「教育よりもとにかく金儲け優先」という彼の打ち出した経営方針に反旗を翻した優秀な教職員の多くが次々と学園から去っていく。
残った者は、学園の教職員は秋次に金を握らされて丸め込まれた者と、新たに採用された元秋の金儲け主義に異論を唱えないサラリーマン教師ばかりであった。
したがって、当然のように瞬く間に学園の進学率は低下し、強豪と謳われたクラブ活動の成績も低迷の一途をたどっていた。

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松木「東京から帰ってきた死んだ前理事長の娘の英子っていうのはあの女か?」
自ら吐き出した煙が目に入り、うっとうしそうに松木が言った。松木慎一は、弱体化してしまった野球部の現監督だ。今日も、練習の途中でグランドから抜け出し、用務員の内田幸作相手に日ごろの愚痴を話している。
内田「ええ…、フランスの何とか言う名門大学を出たインテリで、ここに戻って来る前は東京で無名の馬鹿女子校を3年間で進学校に変身させたやり手の才女だって専らの噂ですよ…でもどうです?見てのとおり中々色っぽい女じゃないっすか?」
馬場の柵にのせた両腕に顎をつけた内田が答えた。

二人の目線の先には、このところ学園の建て直しで、教員の意識改革に乗り出した副理事長、毛利英子の姿がある。

創立者、元秋の長女英子は、フランスのソリボンス大学歴史学科を主席で卒業するほどの才女である上に、幼少の頃から培った馬術の腕前もかなりのものであった。
母校でもある毛利学園の悪評を憂い、勤めていた都内の有名女子高校を惜しまれながら辞め、一年前からこの学園で世界史の教員として教壇に立つと共に、馬術部のコーチに就任している。
また同時に、毛利学園の次期後継者として副理事長の職を兼任し、秋次の補佐役として学園の運営を司ることとなっていた。しかし、かねてから学園の低迷の原因は現理事長の経営方針にあると確信していた英子は、秋次の経営方針に左右されることなく、独自に低迷する学園を何とか建て直すべく日々活発に動き回っている。

松木「副理事長の権限を傘に改革だの粛正だの声高に訴えているらしいじゃないか…」
内田「世界史と馬術部の顧問だけを任せておけばよかったんですよ!それを毛利一族の広告塔だからという理由で副理事長に就任させたのが間違いだったようですね」
松木「ただのお飾りのはずが、蓋を開けたら学園の運営にまで口出しか?困ったもんだな…」
ため息をつくように松木がタバコの煙を吐き出した。
内田「このままバリバリ動かれたら色々と困る先生もいるんじゃないですかね?・・・出る杭は打つ、ですかね?」
内田の英子を見つめる目つきが卑猥を帯びている。

学園の改革にあたって、就任当初はなるべく波風を立てる事なく穏便に物事を解決していこうと努力していた英子であった。しかし、完全にぬるま湯に浸かってしまい感覚がマヒしてしまった教職員の前では、一年が過ぎた最近は、ついつい毛利一族であり、副理事長であるという権限をちらつかせながら、強い口調で彼らを叱責してしまうことも多い。
そんな英子に対して教職員達の間では、「なぜ今までどおりに職務をこなしているにもかかわらず英子に叱責されなくてはならないのか?」「納得がいかない」「契約した時に理事長からはそんな指示を受けていなかった」という声が囁かれ、英子に対する不満と苛立ちを抱く者が増えていたのだ。


 
 

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